丸さんの医療コラム

医療ジャーナリスト・丸山寛之さんの医療・健康コラムです。
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紳士とインテリとたばこ


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 「喫煙者は非喫煙者に比べて平均で10年早く死亡する」と、英オックスフォード大学のリチャード・ドール名誉教授(92)が、多年にわたる疫学調査の結果を発表した。04年10月、新聞の海外短信欄でこんな記事を読んだ。

 いま「たばこ肺がん説」を知らない人はいないだろうが、それの元祖がドール教授である。教授が、たばこを吸う英国人医師3万4439人の追跡調査の結果、喫煙が肺がんと関連する決定的証拠を明らかにして、『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』に発表したのが54年。それを受けて英国政府は56年、喫煙と肺がんの関連性は「疑いの余地はない」と認めたのだった。

 半世紀を超える調査研究の集大成となる今回の論文で、教授は、「50歳で禁煙すると喫煙で死亡する危険性を5割軽減でき、30歳で禁煙するとリスクはほぼゼロになる」と述べている。

 禁煙するなら早ければ早いほどいい。60、70ではもう手遅れか。「そんなことはありません」と、日本で最初の「禁煙外来」を東京女子医大病院に開設した阿部真弓医師。

 「80歳のかたが、おやめになって、こんなに爽やかな朝を迎えられるのだったら、もっと早く禁煙すればよかった、と。朝の目覚めが違いますし、たんの絡みとか息切れが軽くなり、胸一杯深呼吸ができるようになります。高齢の人ほどやめたときの体の楽になり方の実感が大きいのです。若い人は体力があるので、多少の変化はあまり感じないけど、高齢者は、呼吸機能などいろいろな身体的能力が落ちているので、禁煙によって、たとえば血液中の一酸化炭素の量が正常化すれば酸欠状態が改善されて、それだけでも歩くときの足の重さとか、体の疲れとか、肩こりとか、全然違ってきます」

 それにしても、世間には何十年来の愛煙家でありながらけっこう元気に長生きしている人も少なくない。元日本医師会理事の太田顕先生にお目にかかったのは、先生百一歳の秋だったが、「私はね、長生きの要件は、まずクヨクヨせんことだと思います。済んでしまったことはスパッと忘れる。それから、次がたばこです」とおっしゃる。

 「あ、やっぱり、たばこはいけませんか」

 「そうじゃない。たばこが私の長生きの秘訣なんです。たばこをフーッと吹かしてね、けむりを見ていると、脳が休まる。頭を休めるのにこれほどいいものはありません」

 バイオリンの「スズキ・メソード」の鈴木慎一氏は、「たばこは、ほかの動物は吸ってないからね、人間である一つのプライドとして吸ってるわけです」と、卆寿を過ぎて日に三箱もキャメルを空にされていた(98年死去。99歳)。

 稀有な例だが、たばこに対する耐性の強い人が存在するのは事実だと、専門家も認めている。先年こんなジョークを聞いた。

 「イギリスでもたばこを吸わない人が増えていますか?」「インテリは吸わなくなりました。しかし、ジェントルマンは相変わらず吸っています」─あなたは紳士? それともインテリ?

※ドール教授は05年7月に亡くなりました。

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