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花粉症克服術―この春、スギ花粉に負けないための最新情報

 ことしもまた、黄色い花粉の襲来におびやかされる季節がやってくる。スギの花粉は直径30ミクロン(0.03ミリ)という微粒子。これが春風に乗って数十キロも飛び、全国に約1300万人もいるというスギ花粉症患者を泣かせる。そのために使われる医療費や労働効率低下の経済的損失は年間約2860億円になると、科学技術庁(当時)が2000年に発表している。


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 花粉症とは、スギなどの花粉によってひき起こされる眼や鼻のアレルギー(異常過敏症)である。

 アレルギーの原因となる物質を抗原またはアレルゲンというが、体の中に抗原(スギ花粉症ではスギの花粉)が侵入すると、それに対抗する物質=抗体が体内につくられる。

 抗体は、肥満細胞と呼ばれる細胞に乗って出撃し、抗原を捕らえる。このとき、肥満細胞から放出されるヒスタミンなどの物質が、神経を刺激し、その刺激でくしゃみ、鼻水、鼻づまり、眼のかゆみといった花粉症の四大症状が起こる―というのが花粉症のしくみである。

 花粉症といえば、まずスギだが、ヒノキ、シラカバ、ブタクサ、カモガヤ、ヨモギなどの花粉などにアレルギー反応を起こす人もある。スギ花粉症患者の60%はヒノキ花粉症ももっているといわれる。

 ヒノキの花粉は、スギ花粉の飛散が終りかける4月初旬から飛び始める。スギ・ヒノキ花粉症の人は、2月初めから5月の連休明けのころまで都合3ヵ月間も悩まされることになるわけだ。ご同情にたえないが、一説によれば、アレルギー患者にはガンが少ないそうである。ガンよりはましだと思えば多少、辛さも薄らぐのではないだろうか。

 それにしても、スギの花粉もそのほかの花粉も昔から飛んでいたはずだが、日本には花粉症はないといわれていた。日本で最初に報告された花粉症は、東大の荒木英斉医師によるブタクサ花粉症で、1961年のことである。続いて64年に東京医歯大の斎藤洋三医師が、出向先の日光の診療所でスギ花粉症を見つけて報告した。

 だが当時の有病率はまだとても低く、70年代半ばの調査でも数%以下でしかなかった。それが急にふえたのが79年で、3年後の82年に非常に大量の花粉が飛び、患者数が激増、社会的現象になった。

 当初、それはスギの花粉量がふえたせいだといわれた。しかし、近年、患者数はふえる一方だけれども、スギの植林面積はほとんどふえてない。花粉量は横ばいか、むしろへり気味なのである。

 では、なぜ、スギ花粉症患者はふえているのか? 原因については諸説あるが、一つを挙げると、日本人の体質の変化だ。たんぱく質に富む食事をするようになったので、抗体がつくられやすくなり、花粉症のみならずアトピー性皮膚炎やぜんそくなどアレルギー性の病気が増加したという説である。

 今や成人の5人に1人が花粉症で、発病はしてないが、約40%がスギ花粉の抗体保有者といわれる。

 この、いわば花粉症予備群の人たちは、なにかのきっかけがあれば発症するわけで、そのきっかけはなにかといえば、大気汚染や都会生活のストレスなどである。思春期や妊娠・出産もきっかけになる。

 もう一つ、花粉の大量飛散の年には、その年初めて発症する人が多いし、すでに発病していた人は、症状が強くなる。今年のスギ・ヒノキの花粉は、記録的だった昨年よりは少なめだが、平年よりは多いと、日本気象協会は予測している。

 花粉がたくさん飛んだ翌年は、患者がどっとふえるのが通例だから、去年までは大丈夫だった人も、今年は油断できない。おどかすわけではないが。

 ――というところで、この春、涙と鼻水の日々をうまく乗り切るにはどうしたらいいか。スギ花粉症の発見者、斎藤洋三・前東京医歯大助教授の教示をご紹介しよう。

 花粉症に克つには、メディカルケア(医師や薬剤師による治療)と、セルフケア(自己治療)を車の両輪のごとく並行して行う必要がある。

 メディカルケアは、発症を抑える予防薬と即効性のある対症薬の二本立てになる。

 予防薬は、抗アレルギー薬といわれるもので、即効性はない。毎日服用して2週間後あたりから効果が出てくる。花粉が飛散する2~3週間前から飲み始めると、発症が予防できる。完全な予防はできなくても、症状を軽くすることができる。

 対症薬の主力は、抗ヒスタミン薬と鼻用の噴霧薬(局所性ステロイド薬)だ。

 ところが、抗ヒスタミン薬には中枢神経抑制作用(脳の働きを抑える作用)がある。飲むと頭がボーッとし、強い眠気が起こる。眠気は感じない人でも作業や学習の効率が低下する。そうした脳の働きが弱くなった状態を「インペアード・パフォーマンス」という。 抗ヒスタミン薬によるインペアード・パフォーマンスの現れ方はアルコールよりも強いことがわかっている。早くいえば、抗ヒスタミン薬のほうが、酒を飲んだときよりも眠くなりやすい。だからアメリカの大半の州は、抗ヒスタミン薬など鎮静作用のある薬を服用したときの車の運転を禁じている。違反した場合の罰金は最高5000ドル(約60万円)だそうだ。

 日本にはそんな法律はないが、車の運転とか重要な会議など眠くなっては困るときは、抗ヒスタミン薬をのむのはやめて、目薬や点鼻薬だけにする―というのが、これまでの賢い患者の自衛策だった。

 しかし、昨年、認可発売された新しいタイプの抗ヒスタミン薬だと、インペアード・パフォーマンスはほとんど起こらない。薬の成分が脳内に移行しないためだという。フェキソフェナジン(アレグラ錠)というこの薬を使用するには医師の処方せんが必要だ。症状の重い人はぜひ医療機関へ―。

 なお、花粉症の根本的な治療法は、抗原のエキスを少しずつ注射して体を慣らしていく減感作療法(免疫療法)しかない。難点は長期間の通院が必要なことだ。

 近年、手っとり早くて効果的だと普及してきたのが、鼻の粘膜をレーザー光線で焼く治療法。永久的ではないが、3、4年は効果が持続するようだ。

 セルフケアの話に移ろう。セルフケアの第一歩は、とにかく極力、花粉を浴びないよう心がけることである。

 毎朝、花粉情報を聞き、飛散量の多い日はなるべく外出を控え、出かけるときは、眼鏡とマスクで目と鼻を防御する。雨の日に傘をさすのと同じことである。

 花粉症専用の眼鏡(ゴーグル)もあるが、普通の眼鏡やサングラスでもかなり花粉防止効果がある。

 マスクも、花粉を通さない素材で作られたものがあるが、普通のマスクと湿らせたガーゼを併せて使えば(ガーゼを水に浸し、きつく絞ってマスクの内側にはさむ)ほぼ同様の効果が得られる。

 首すじの、服でこすれた皮膚に花粉がくっつくと炎症を起こしやすいので、スカーフかマフラーを巻く。コートは、花粉がつきにくい表面がスベスベした織りの細かい生地のものがよい。

 外から帰ったら、入り口で花粉をよく払い落として屋内に入る。これは花粉症の人だけでなく周囲の人全員がやらなければ意味がない。家の中に入ったら、すぐうがいをし、顔を洗い、手を洗うようにしよう。

 おしまいに、だいじな心がまえを一つ。馬場廣太郎・獨協医大教授(耳鼻咽喉科)によれば、それは「あまりデレデレしないこと」である。

 「鼻の病気には自律神経がかなり関与しています。自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、精神的に緊張し交感神経が優位になると、それまで詰まっていた鼻が通り、クシャミなども出ません。反対に、緊張感がほぐれてデレッとなった副交感神経優位の状態では症状が出やすい。つまり、ほどよい緊張感のある生活を……という勧めです」

 思い当たる向きは反省されたし―なんて、えらそうな口が利ける柄ではありませんが。
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