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怖い「居眠り病」―睡眠時無呼吸症候群とナルコレプシー

 新幹線運転士の居眠り事件があちこちで話題になっていたころ、たまたま睡眠障害の専門家と会うことがあったので、どんな原因が考えられるか、聞いてみた。
 答えは、睡眠時無呼吸症候群か、花粉症ではないだろうか、いま丁度、スギ花粉飛散の最盛期だから―というものであった。全国の花粉症患者の数は1000万人以上といわれる。居眠り運転士がその一人だとしても、不思議ではない。


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 花粉症の対症療法に用いる抗ヒスタミン薬は、中枢神経を抑制するので眠気を誘発しやすい。そのためアメリカの大半の州は、抗ヒスタミン薬服用時の運転を禁じている(罰金5000ドルとか)という話であった。なるほど、花粉症もアリか、と思ったが、後日の詳しい検査で、当該運転士が睡眠時無呼吸症候群と診断されたのは、ご存じのとおりである。

 睡眠時無呼吸症候群(SAS=Sleep APnea Syndrome)は、睡眠中に何度も呼吸が止まる状態が繰り返される病気で、「一晩(7時間)の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上おこるか、睡眠1時間あたりの無呼吸数が5回以上の場合」と定義されている。閉塞型、中枢型、混合型に分けられる。
 閉塞型は、空気の通り道である上気道(鼻、口、のど)がふさがって、息ができなくなるタイプ。ものすごいイビキをかき、イビキが止まると息も止まり、息が復活するとイビキも再開する。
 中枢型は、脳の呼吸中枢のはたらきが一時的に低下するため、息が止まる。しかし、上気道が閉じるわけではないのでイビキはほとんどかかない。イビキは、狭くなった上気道を空気が通過する音だからだ。
 混合型は、1回ごとの無呼吸が、中枢型で始まり、閉塞型に移行する。基本的な病態は閉塞型と同じである。

 これらのうち圧倒的に多いのが閉塞型で、次が混合型だ。中枢型は、脳卒中などの症状として起こるものは結構多いのだが、呼吸中枢自体に原因があるもの(原発性肺胞低換気症候群という)は、ごく少ない。
 閉塞型と混合型の患者は、これも圧倒的に多いのが成人男性で、肥満体、首が短くて太い、顎が小さいといった特徴がみられる。症状は、なんといってもまず、イビキだ。といっても、のべつまくなしにガーガーとうるさい習慣性のヤツではなく、ガガガッときて、しばらくするとパタッと静かになり、やれやれとホッとする(むろん被害者が)間もなく、また、ガガガッと始まる周期性のイビキである。イビキをかいてないときは、息もしてない。

 夜間の中途覚醒や頻尿が起こり、時間的には十分寝たつもりでも(睡眠が浅いので)、朝起きたときに熟睡感がない。頭痛を覚える人も多い。睡眠時無呼吸のせいで、血液中の酸素の濃度が低下し、炭酸ガスがたまるためだ。血液中の酸素が減り、炭酸ガスが増えるということが繰り返されると、血圧が高くなるし、不整脈も出てくる。
 ひどくなると心不全を招く。当然、寿命にも影響する。閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者の死亡率は、同年齢の対照群の平、均死亡率の約3倍といわれている。恐ろしい病気なのである。
 しかし、本人にとって当面なによりも辛いのは、日中の眠気である。単調な仕事や会議など普通の人でも眠くなる場面ではもちろんのこと、、普通ならまず眠気を催すことのない商談とか、運転の最中でも居眠りしてしまう。大臣が話をしている面前で、コックリコックリ舟を漕ぎ始めたお役人もいるらしい。その後どうなったか、人ごとながら気になる。

 似たような居眠り病にナルコレプシーというのがある。こちらはもう一段、病態のレベルが高い感じで、日中、何度となく睡眠発作に襲われ、そのたぴに10分か20分、眠り込んでしまう。大笑いしたり、激しく怒ったり、強く驚いたりした瞬間、、体からカクンと力が抜ける情動脱力発作を伴う。
 原因はよく分かっていないが、脳幹網様体に軽い機能障害があり、眠りのリズムが狂わされるのではないかと考えられている。十代の半ばに発症し、10年も20年も続く例が多い。麻雀をやりながら眠るといわれた作家が、この奇病の持ち主だった。
 このほか、ピックウィック症候群とか、オンディーヌの呪い症候群といった睡眠障害が古くから知られていたが、その後の研究で、前者は閉塞型睡眠時無呼吸症候群、後者は原発性肺胞低換気症候群(すなわち中枢型睡眠時無呼吸症候群)であることが分かった。
 ちなみに、ピックウィックは、チャールズ・ディケンズの小説の主人公(よく太った居眠り少年)の名で、オンディーヌは、ギリシャ神話の水の精(自分を裏切った男に、眠ると呼吸が止まる呪いをかける)の名である。

 さて、大急ぎで治療法を略述する。現在、最も効果的とされているのは、経鼻的持続陽圧呼吸療法装置(CPAP=シーパップ)という器械でもって、睡眠中に鼻から空気を送り込む方法だ。鼻茸や鼻中隔湾曲症など、鼻づまりを起こす疾患さえ合併していなければ、ほとんどの閉塞型睡眠時無呼吸症候群が劇的に改善するという。医療保険が適用され、3割負担でも月3~4000円だ。
 軽度から中等度の人には、オーダーメードのマウスピースもよく効くようだ。こちらは保険は利かない。3~4万円かかる。手軽なところでは鼻腔を広げるテープなどがある。いずれにせよ、きちんと対応すれば、睡眠時無呼吸症候群は確実に改善できる。

 あの居眠り事故を受け、多くの交通機関で運転士の睡眠障害検査が行われ始めているという。それは必ず今後の事故防止に役立つはずである。怪我ならぬ居眠りの功名というべきか。

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