丸さんの医療コラム

医療ジャーナリスト・丸山寛之さんの医療・健康コラムです。
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超格安・超安全な万能薬-水

 「脆弱な頭部をもつ者は、優れた飲み手ではあり得ない。酔いが苦しめる度合いが強いからである」
 昔、この言葉に初めて出会ったときは、思わず声を発して笑った。言うまでもなく自潮の笑いである。事態は、いまもあまり変わってはいない。

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 やわな酒飲みにはなかなか辛辣なこの警句は、ヒポクラテスの『空気、水、場所について』に出ている(岩波文庫『古い医術について』収録)。
 この論文、ひとくちに言って、自然環境に関する最古の医学的考察であるが、このなかでヒポクラテスは、「水の健康におよぼす影響は非常に大きい」と、いろいろな例を挙げて説いている。今回は水の話です。
 古今亭志ん生が、ひどい貧乏暮らしをしていたころ、家族のだれかが風邪かなにかで寝込んでしまった。医者を呼ぶどころか、売薬を求める金さえない。閉口した志ん生は、言ったそうである。「水でも飲んでみな。病気もちッたぁ薄まるだろう」
 いかにも志ん生らしいエピソードで、笑いながら感服するのだが、水は、たしかに病気を薄めるのである。アメリカの生理学者も言っている。「水は副作用のない素晴らしい“万能薬”である。鎮静剤、解熱剤、利尿剤、強壮剤、催眠剤として、おだやかで確実な効果が、水にはある」(シモン・バルーク『近代医学における水の用法』)。
 人間は、なにも食べなくても水さえ飲んでいれば普通、3~4週間は生きていられる。が、水を一滴も飲まなかったら4日ともたない。体内の老廃物を排泄する尿も、体温の調節をする汗も、もとは水だ。体の水分が不足すると、こうした体の生理作用のバランスが崩れ、体調がおかしくなる。
 心筋梗塞や脳梗塞などが朝、起こりやすい最大の一因も、水分不足。睡眠中の発汗や不感蒸散によって血液が濃縮し、血栓ができ、血管が詰まりやすくなるためといわれる。これを防ぐため夜寝る前と、朝の起き抜けにコップ1杯の水を飲むことを、循環器の専門医は勧めている。
 朝、起き抜けに水を飲めば、(1)目覚めがスッキリする。(2)血液の粘りをへらす。(3)便通を促す。(4)食欲がでる。(5)水の味で体調がわかる(体調がよければ水がうまく、わるいとうまくない)。まさに健康は朝1杯の水から―というわけである。
 イライラするとき、腹が立つとき、冷たい水をゆっくりと飲めば、気持ちが落ち着き、不安がやわらぎ、平静さが回復する。こんなに安くて、安全で、よく効くトランキライザーなんて滅多にあるものじゃない。――というところで腰折れ一首。
 世の中はなにやらかにやらありまして年寄りなれど冷や水を飲む

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