丸さんの医療コラム

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トントン「トンカチ健康法」―足裏のツボ

 5月の声を聞くと、毎年1度は思い出す詩がある。
 ふらんすへ行きたしと思へども/ふらんすはあまりに遠し/せめては新しき背広をきて/きままなる旅にいでてみん

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 ―というスタンザではじまる萩原朔太郎の詩「旅上」である。フランスがあまりに遠いことにおいては、不肖マルヤマの現在も、昭和初年の大詩人並みであるが、ともあれ、詩はこうつづく。
 汽車が山道をゆくとき/みづいろの窓によりかかりて/われひとりうれしきことをおもはむ/五月の朝のしののめ/うら若草のもえいづる心まかせに
 ―どうですか。じつに旅情しきりにそそられるようではありませんか。
 詩人は新しい背広を着て、どうやら夜汽箪に乗ったものらしいが、先年物故された考古学者、樋口清之先生は、旅に出るとき必ず鞄にカナヅチを入れた。しかし、行先が奈良のばあいはその必要はなかった。定宿の日吉館に愛用の1丁を預けてあったからだ。

 いったい、そんなものを何に用いたのか? 硬くなった石頭を叩いた。失礼。毎晩、就寝前に足の裏をカナヅチで叩くのが、先生の少年時代からの習慣であり、唯一の健康法であった。
 寝床の上にあぐらをかき、足の裏の土踏まずのところを、トンカチでトントン……と10分間くらい両足交互に叩く。すると、足がポーッと温かくなり、熟睡できる。
 「風邪気味のときなど、いつもより念入りに時間をかけて叩くと、熱い湯に入って汗を出すのと同じ効果があるようです。食べ過ぎて腹が張っているときも、これをやるとスッとらくになる。自己暗示かもしれないが、足の裏のひびきが内臓に伝わって腸の蠕動が促されるような気がします」と、先生は話しておられた。

 東洋医学の専門家に聞くと、それには十分理由がある。足の裏の土踏まずのへりには、「湧泉」というその名のとおり、生命の泉を湧き起こすツボがある。
 湧泉を刺激すると、全身の皮膚や筋肉、靱帯など体の軟部組織の血流が促進され、その柔軟性、弾力性を保たせ、体の運動機能を高める。結果、全身の血液環がよくなり、内臓の働きが盛んになる。毎日習慣的に続けることの健康効果は計りしれない。
 樋口先生は、ご母堂(奈良女子高等師範学校第1期生であった由)からこのトンカチ健康法を教わったと言っておられた。

 樋口清之先生。歴史をたんなる知識に終わらせず、現代との接点を模索しながら、「なぜ」と問いかける姿勢を、終生持ち続けた。ベストセラー『梅干と日本刀』はその一つの所産といえる。平成9年2月、急性腎不全のため逝去。88歳だった。
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